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送り火

8月16日、妻の実家に帰省した。

墓参りだ。妻の実家は甲府なので電車で2時間ほどだ。

仕事上がりにそのまま夜の電車で戻った。

昔の妻の部屋に入ると、地デジから見放されたテレビと

キラキラシールを貼りまくった姪っ子のラブレターが

お迎えしてくれた。

 

翌朝、お線香を持って出かける。お寺さんに行くと

比較的空いていた。庭木の手入れもしっかり行き届いた

落ち着くお寺だ。

入り口付近で桶に水を汲み、柄杓を持って歩き出す。

毎年1回通る道を抜けて墓前へ。

汲んだ水をかけて、線香を焚く。

カトリックなのでやり方は見様見真似だが、

この歳になるといやでも覚えてしまうものだ。

 

いったん家に戻り、前歯が抜けた姪っ子たちとボーリングへ。

テンション高い姪と久しぶりのゲーム。

変な筋肉痛になるまで2ゲームしかかからなかった。

姪っ子の体力に合わせたことにしてキッズランドへ。

もぐらたたきに釣り堀、巨大ジャングルジムや

巨大ブロック崩し…ミニ水族館にコップの模様付けの

イベントなど、くまなくやり込んで再度帰宅。

 

早速というより、もうバーベキューの準備が半ばくらいまで

仕上がっていた。お父さん、すみません。

夏の夕暮れが静かに降りてくる頃、

向かいの門の脇から煙の匂いがし始める。

ふと見ると小さな焚火をしている。

準備を進めながらいぶかしく見ていると

父が口を開く。

”送り火だな。”

知識にだけは留めていたが、実際目にするのは

初めてだ。父は続ける。

”ナスとキュウリに割りばし指して馬と牛に見立てて

盆の初日に迎え火を焚く。ご先祖さんが迷わないように。”

”お盆が終わったら今度は送り火をするんだ。

おがらって言う皮をはいだ麻の枝を燃すんだよ。その後は…”

父の話に耳を傾けながら、送り火から上がる煙の道を帰る

ご先祖様はどんな気持ちなんだろうかと巡らしていた。

”また来るね”、”ありがとね”、”楽しかったよ”、”元気でね”。

一年に一回の楽しみが終わっていく。

祭りのあとのような寂しさを思い出す。

 

”じゅんびをいっぱいしてくれたジィジにまずは

ありがとうございます。それでは始めたいと思います。”

どこで覚えたのか、大人びた(ような)姪の

バーベキュー開会の挨拶で宴会が始まった。

ビールを頂きながら焼き係がベストポジション。

何故かたこ焼きも同時進行。

仕事から上がってきた義弟と再度乾杯。

宴もたけなわになったところで花火が彩る。

 

明日の朝には日常が始まる。

ひんやりとした空気が秋の気配を忍ばせる。

”また来るね”、”ありがとね”、”楽しかったよ”、”元気でね”。

 

夏が過ぎて眺める秋の空が、切なくも清々しく見えるのは

送り火の煙が上るからなのか。

それとも迎え火の楽しみがあるからだろうか。

花火の煙に巻かれながら、ふと思う夏の終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

Go to 五島!

暑いわ~っと感じたら、ドボンと池に飛び込む

カエルのように生きたいと思う今日この頃。

カウンター内のシンクの水もぬるいところがニクイ。

 

先月から続くSAC内の乱気流でヘトヘトだった2人。

一時3人になり、オペレーションも流れ出したので

シェフもやっと落ち着いて新メニューに着手した矢先、

また2人へ。元の木阿弥の中、新メニューを投入。

・鮮魚のポワレ アンチョビクリームソース

・森林鶏の赤ワインヴィネガー煮込み

・冷たいとうもろこしのクリームスープ

魚料理のアンチョビクリームソースは白ワインやハーブワインを

ふんだんに使用しているので軽やか&リッチな味わいを

出している。

肉料理の森林鶏は鶏独特のクセがほとんどない、

繊細な味わいをもつ身質。赤ワインヴィネガーで

軽く煮込んでさっぱりとした下味をつけ、

軽く表面を炙ってトマトクリームソースを合わせている。

最後の冷たいトウモロコシのクリームスープは夏を感じる。

トウモロコシのストレートな甘さがスーっと伸びるように

入ってくる。上に散らしたハーブの香りと冷たさが相まって

爽やかに仕上がっている。(写真撮ってない~)

 

栄養ドリンクの応募シール集めようかなあ、なんて

笑えないジョークを飛ばしているシェフにもやっと

助っ人新人登場。

去年、卒業と共にSACに入ることになっていた新人君。

家庭の事情で帰郷せざるを得なくなり、お互い苦渋の

選択となった年度末。家が落ち着いてきたので彼が

復帰した。しかもこのタイミングで。

カミのない僕にもカミはいるようだ。

 

引っ越しもすぐ決め、もう働き出して5日目。

オペレーションも徐々に動き出している。

嵐を抜け、張り詰めていた心が次第にゆとりを

持ち始めた。

 

もうすぐ五島だな。去年の五島はひどかったな。

嵐の真っただ中で、羽根は残っていてもプロペラが無く、

行く先にたどり着けるか気持ちだけは繋いで飛んだよな。

あれから1年。お客様から来る上昇気流に助けられ、

6月の乱気流も乗り越え、やっと準備が整った。

Go to Go to !

 

 

 

 

台風

今日は休日なのでゆっくりお店へ。

イタイ日差しを避けるように日影を選んで

ススム。

全国の天気予報図を見ると五島が台風だ。

 

小学生の頃、台風が来ると分かると

爺ちゃんや親父から指令がくる。

まず雨戸の外と内側に1本ずつ

横に渡した竹で挟んで紐で結わって

雨戸が飛ばないように固定する。

次は船だ。

通常は船の前側から港につけるためのロープ1本、

後側にはイカリ用の1本で固定して停泊しているが

嵐の時はそれぞれ2本張りして4点固定する。

港につける側のロープは陸でできるが

2本目のイカリは泳いで固定する。

台風間近で海は荒れ気味の中、

10キロはある鉄を泳いで20mくらい離れた

ところに運んで固定する。

小学生の自分と中学生の兄にその指令が出る。

時間がないのだ。

雨が降りしきる中、湾を挟んで向かいにある港に向かう。

直線で泳げば300mくらいだが湾沿いに歩くと600m。

着く頃には服はびしょびしょ。

港側の固定はすぐ終わったが問題はイカリ。

10キロ以上のイカリを船から伸ばして打つとなると

海中散歩が必須だ。

名前の通り、イカリを持って海底を歩く。

息が切れたらいったん海面に上がって息継ぎをする。

また潜って少しずつ前へ。

説明だけ聞いていると島民の戦いみたいな

タイトルがつきそうだが

当の本人達は嬉々としてやっている。

嵐の日はなぜか気持ちが昂るのだが

家でじっとしているが定番。

でも指令ならしかたがニャイ。

荒れ始めた海に向かうのは、まして泳ぐなど

興味本位であればNGだが自分たちには

使命がある。昂る気持ちになる男の子には

もってこいなのだ。しかも1人じゃない。

すでにずぶ濡れな状態で海に入る。

イカリを持って海底を歩く。

地表の嵐がウソのように、海の中は静かだ。

海温も気持ちいい。テンションMAXだ。

兄弟そろって真っ裸になって指令をこなしつつ

フツーはできない所業に満足する。

生きてるから楽しかったと言えることは

否定はしない。

でも生きていることがラッキーだから。

 

そんな台風対策ができるメンバーがいない

実家に電話をかける。

家が新しくなってから台風も怖い存在では

無くなったとはいえ、やはり80を超える

両親に懸念は残る。

”風の西から吹いとってすごかもんばい”

”停電になってテレビも見れんけん、

みんなごろごろしとっと。”

”冷蔵庫のアイスクリームが溶けてしまうっちゃ

なかかとかって心配しとると”

 

五島の台風ってこんな感じ。

 

 

 

 

 

 

 

抹茶のブリュレ

天気予報から梅雨入りを知らされる。

 

傘を持ち歩いたり、濡れたりと手間がかかる

だけでなく、どんよりとした気持ちになったり

水場にカビが生えて不健康すら感じる。

イメージ的にはだいぶ悪い気がする。

 

でもカフェで雨ふりを眺めたり

水溜まりではしゃぐ子どもに昔を重ねたり

普段聴かないのにジムノペティ聴きたくなったり

庭のトマトの苗に”大きくなれよ~”と声かけたり

心穏やかな一場面も出てくる。

とどのつまりはこころのゆとり次第なのでしょうかね。

 

というわけでデザートに抹茶のブリュレが登場!

ああ、なんて乱暴なフリ。

でも意味なくデザートを持ってきたわけではない。

僕は思うのですが、ゆとりがあるからデザートを

楽しむのではなく、デザートを食べるから心にゆとりが

生まれるのだと!

”抹茶のブリュレ マスカルポーネとココナッツのアイス”

粉っぽそうな抹茶がなんて滑らか!

奥行きのある味わいの上にチーズのマスカルポーネと

ココナッツが1つに合わさって・・・いや、

それぞれの味がそのままに抹茶と絡んでマス。

一つの皿の中で対旋律を楽しむ感じですかね。

 

食べながらこんなことを考えていたら

ほら、心にゆとりができるでしょ?

SACで食事をすれば、雨の日も楽しめるかもよ~。

 

 

 

 

 

 

夏が近づく魚料理

おお、ブログ更新が恐ろしいほど

間延びしている…。でも今度から

ちゃんと書く時間を割くことが

出来るようになってきましたよー!

理由は・・来店してからのお楽しみ。

すぐ気づくと思うけど。

 

今日は魚料理の変更のお知らせ。

梅雨に入ってじわっと暑いこの季節、

割とさっぱりに行きましょう!ということで

”鮮魚のポワレ アンチョビクリームソース”

割とさっぱりなんて言っときながらクリームソース。

でも本当に軽やかで伸びのいい上品なアンチョビソースなのだ。

ソースのベース部分にあるノイリー(ハーブワイン)と

白ワインがクリームソースの中にふんわりとした風味と

軽い酸味を織りなしていく。

口の中で広がるリッチなクリームと

爽やかなハーブの香りで包む魚料理です。

付け合わせの緑のもじゃもじゃ君は陸ヒジキ。

クセのないシャキシャキ感は癖になりそう。

それと小梅じゃなくて、セミ・ドライに仕上げた

プティ・トマト。色のアクセントもいいけど、

味のアクセントの方も抜かりなし。

穏やかな夏の気配をどうぞ。

 

 

 

 

 

 

プリン

昔ながらの焼きプリン。

フランス語だと”クレーム・ランバルセ(ひっくり返す)”。

あまりにもそっけないデザート・・ではない。

ディナーのオペラ、エッフェルコースの前菜、

”フォアグラのプリン 自家製ブリオッシュ添え”だ。

見た目は素朴なプリン。キャラメルソースが本当に

掛かっている。実は口に含んでしばらくの間もプリン。

口の中に空気が入った瞬間、フォアグラ・プリンになる。

フォアグラの香りだけでなく、ポルト酒やナツメグといった

香りもふわりと吹き抜けていく。

フォアグラは”甘強い”ものとよく合う。

ねっとり甘口ワインのデザートワインやはちみつ、

そして今回はキャラメルソースだ。

奇をてらった料理のように見えるが

クラシックフレンチが脈づいている。

デザートに春の風

焼き菓子系のデザート、

”レモン風味のパウンドケーキ”が終了です。

キラキラ感は少なめだけど

しっとりじんわり落ち着くデザートだったなあ。

その代わりに入るデザートは

”フロマージュ・ブランのムース オレンジのクーリ”

フロマージュ(チーズ)・ブラン(白)という

なんのひねりもないネーミングだけど

結構、聞き覚えのあるチーズの一つ。

これをフワフワのムースに仕上げると

軽くてむっちりとしたデザートになる。

絡みやすい濃度のオレンジソース(クーリ)と

フレッシュのオレンジはそれぞれに違う

おいしさを引き出す。

 

全体的に黄色の色合いだが、これが

フランスの春の色。それはミモザの色。

どんよりした冬の終わりを告げる色だ。

 

オレンジのクーリにはコアントローという

オレンジリキュール(お酒)を加えて

キレと風味を上げているので

アルコールが苦手な方は伝えてください。

 

新しいラインナップが徐々に進んでいるので

お楽しみに。

 

五島にアンコウ⁉

五島から魚が届いた。

季節の変わり目なので

”冬が主役”の魚たちも千秋楽を

迎えようとしている。

”だはぁ~”って顔したコイツは!アンコウ!

今まで主役張っていたヘダイ、イラを押しのけて

”最後の舞台に間に合った~、だはぁ~”と

駆けつけてきた。

確かに旬の終わりで間に合ったはいいが、

初めて見る生のアンコウ。ケッコーなブチャだ。

・・・・。

・・・だんだんエサねだり顔のワンちゃんに見えてきた。

ちょっとブサカワか?

 

五島で取れるんだね。調べてみたら長崎漁港などでも

普通に取り扱っている。ふむふむ、漁獲高日本一は

下関。イメージないけど珍しいものでもないようだ。

しかしこの魚、顔が大きすぎて食べる白身が少ない…。

どうしようかとシェフが考えあぐねた結果、

洋風煮凝りにすることに決定。

アンコウはその白身より頬や皮、肝、

胸鰭の付け根などその他が美味しいらしい。

 

とにかくブランシール(下茹で)して

頭やヒレ、骨から可食部分を取り出す。

ああ、見慣れて可愛く見え始めたところだったのに。

おいしくなれよ~ チーン。

このほぐし身には皮の部分も入っているので

ゼラチンになる。ハーブ類やエシャロットなどを

加えて煮込む。→ 冷やす→完成!

本日のディナーのアミューズ(最初の小さい前菜)。

”アンコウのジュレ仕立て 白バルサミコ”

うむ、お客様に美味しく食べてもらえば

本懐であろう。

今回はたまたまディナーでしたが、

ランチでもお出ししております。

ただこのアンコウ君1匹分ですので

なくなり次第終了となります。

ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

魚料理が春っぽい

手袋なしで運転するのは久しぶりだ。

手の甲をなでる風が気持ちいい。

一気に春めいてきたような気がするが、

三寒四温を念頭に、用心に越したことはない。

SACには早速春めいた一皿が登場。

 

”白身魚のポワレ 新玉ねぎと春のスープ仕立て”

下に敷いているスープはフュメ・ド・ポワソンがベース。

魚のアラと香味野菜を煮込んで作る出汁だ。

当店のアラは五島の鮮魚から取っている。

シェフ曰く、澄んだきれいなフュメが取れるとのこと。

そのスープに潜んでいるのは新玉ねぎ。見えないけど。

新玉の優しい甘さと風味良い魚の出汁、

そこへこんがり焼いた魚がパンチ利かせながら

合わさっていく。じんわり楽しむ料理だ。

魚の上には山菜のうるいをあしらっている。

皿の上には春が来ている。

 

 

 

うっかりの系譜

1月半ばから雪が積もったり、

寒波で寒い日が続いたり

インフルエンザが猛威を振るったりと

SACの店内がやや寂しげだ。

そんな雰囲気を和ませる魚が五島から来た。

”うっかりカサゴ”。

ああ確かに、”しまった~!うっかり食べちゃった~!”

って感じが出ている顔だわ~と思ってしまう。

個人的偏見は置いといて、取り敢えず調べてみる。

何がうっかりなのか?なぜ珍名なのか?

するとヘダイに続き、人間の身勝手に翻弄される

哀しい命名の歴史が…。(某番組ヒストリ〇風)

日本の魚類学者、阿部 宗明先生が1979年に命名している。

この”ウッカリカサゴ”、実は近年になってカサゴとは

違う別種として認知された新種なのだ。

しかも長崎産のカサゴを新種と気づいたのは

バルスコフとチェンという海外の方。ソ連の学術誌に

掲載された。日本近海、しかもカサゴという身近な

魚種を日本の魚類学者が見落とした。ーそう、”うっかり”。

普通のカサゴと見分けが付きにくく、体表の文様や

ヒレにある線の数で区別している。

カサゴとうっかり間違うカサゴなので”ウッカリカサゴ”。

でもインタビューでは

”日本の魚類学者が(本種とカサゴとの違いに)気付かず

ウッカリしていたため、ウッカリカサゴと命名した”<wiki>

と答えている。学者としての矜持と戒めが名前になるとは。

というわけで”ウッカリカサゴ”は八兵衛やペネロペみたいに

うっかりしていない。言われもない札を付けられた被害魚だ。

ちなみに魚類学者の阿部宗明先生を調べると

”安倍宗明”さんが出てくる。

平安時代の天文博士で陰陽師・安倍晴明のひ孫だ。

魚類学者・阿部 宗明(あべ ときはる)

天文博士・安倍 宗明(あべのむねあき)

紛らわしい。うっかり間違えそうな名前だ。

”うっかりした学者”に名付けられた魚と

”うっかり他の学者に間違われそうな名前”の学者。

あべこべのような、同類のような…ん?最終的に

うっかりしているのは誰だ?